【読書感想】ディベートを通じて原爆投下の解釈を知る

読書感想

少し前、SNSで日本人(っぽい人)に向かって「原爆をまた落とすぞ」のような差別的なセリフを吐く非アジア系のヘイト動画を目にし、その内容に衝撃を受けました。

そのような無知で恥知らずな態度を持つ人間が存在することに悲しさを感じたと同時に、もし同様の状況に遭遇した場合、何と言って対抗したらいいんだろうと疑問が湧いてきました。

正直に言って、そもそもそんなことを平気で口にできてしまう人間に理屈が通じる気はしません。しかし、それでもただ感情的に反応するのではなく理性で論理的に反論したい。ただし自分の知識不足は認識しています。

それに原爆をヘイトのネタにするのは論外としても、アメリカ側にあるという「必要悪」という観点を理解するための根拠や思考プロセスを知りたいと思いました。

そう思いながら色々と探していたところ、『ある晴れた夏の朝』という本を見つけました。

日本人の母とアメリカ人の父を持つアメリカ育ちの女の子を主人公に、原爆投下は必要だったのか?というトピックについて、アメリカの高校生たち8人が肯定派と否定派に分かれてディベートするという話です。

重いテーマではありますが、ティーン向けの小説と言うこともあり、あくまでもその年齢にふさわしい正義感をそれぞれ持った高校生たちの視点から事実をどう見るかが語られています。大人の事情に入れられてしまいそうな損得勘定の解釈はほとんどありません。全員戦争反対という点は一致しています。

それに討論の形ということで、トピックごとに分かりやすく整理されています。もちろん第二次世界大戦にまつわる重要な出来事全てをカバーしているわけではありませんが、「この意見を言うためにはこの出来事を挙げる。なぜなら○○だからだ。」といったロジカルな展開になっているので理解しやすいです。

著者は日本人なのでどこまで実際にアメリカ人が教育の場で教えられて考えている内容なのかは分かりませんが、なるほど、その事実をそう解釈するのね、と想像を広げられます。

むしろこの本で取り上げられている事実について、自分の知識の無さを痛感…。

このようなディベートを若いうちから身につけて、他人の意見もきちんと聞いて尊重する。今もこうなのか分かりませんが、アメリカのこのような教育や文化に昔は憧れていました。

 

ちなみに本書は英訳版もあり、平易な英文なので読みやすいです。

せっかくなので原著と比べながら英語表現を学ぼうと読み始めたのですが、思わぬ落とし穴が。

ティーン向けの書籍をティーン向けに英訳した文章と言うのは、照らし合わせるとなかなか読みづらい(笑)。単純な英訳ではなく分かりやすくするために英語は英語で文章を組み立て直し、意訳になっています。これも翻訳の技術なのでしょうね。

日本語の感覚的な表現も具体的な単語を当てはめられていました。例えば「初心者向けの日本語講座」が「Reading Japanese 101」とばっちりネーミング。

よく日本語を英訳しようとすると主語を補う必要が出てきますが、本書ではそれがディベートの行方を左右するカギになっています。

個人的には、例えば「日本人には主語が書いてなくてもわかってしまうもの」という日本語独特の空気感を表現している箇所が、「文脈で分かる」という味気ないシンプルな表現に置き換えられているなど、残念に思うところがいくつかありましたが、英語ネイティブにはその方が分かりやすいのでしょう。

もし筆者が英語ネイティブと同じような文化的背景と語学力を持っていれば、英語版を読んでも日本語と同じ読後感を得られるのかもしれません。

 

難しい単語はほとんどなく構文もシンプルなので、多読練習としておすすめします。ただ日本語版に引っ張られ過ぎると逆に理解しづらくなるかもしれないので、英語版は別の本というくらいの感覚で読んでいいと思います。

原爆投下を「必要悪」と考える人の根拠は何なのか、日本人として聞いている以外にどのような解釈があるのかなどに興味のある人や背景知識を補強したい人はもちろん、ディベートがどのように行われるものなのか知りたい人などに、一度は読んでほしい作品です。

事実をきちんと知り、それを自分の頭で考えて解釈するというのは、誰にとっても重要なスキルですし、この本からも多くを学べると思います。

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